サービス残業

 今年の労働行政では、サービス残業に対する取り締まりの強化が特徴のひとつです。
過去1年間に50万件の労働相談が寄せられていますが、 相談案件別には「解雇」「労働条件引下げ」「出向・配置転換」がベスト3で 「サービス残業」は意外にも入っておりません。
にもかかわらず、逮捕者まで出すなど、今年のこれまでの厚生労働省の取締りは過激の一言に尽きます。
当事務所にもサービス残業に関する相談が、最近では増えております。

サービス残業が1万8千件 03年に労基署が是正指導(16.6.15)

 時間外労働(残業)に対する割増賃金を支払わないサービス残業があったとして、 全国の労働基準監督署が事業主に残業代の支払いを求めた是正指導が、 昨年1年間で1万8511件に上ったことが15日、厚生労働省のまとめで分かった。
 前年(約1万7077件)を1500件近く上回る6年連続の増加で、 過去約30年間で最も多かった。
労働基準法違反容疑で書類送検した件数も、前年の49件から84件に増加した。
 厚労省の集計によると、労基法や労働安全衛生法の違反を是正するため、 2003年は全国の約12万1000の事業所を立ち入り調査。
このうち、約15%に当たる事業所で割増賃金が支払われていないことが判明した。
 03年には、サービス残業で約65億円の未払い分が発覚した中部電力や、 消費者金融最大手の武富士、大手百貨店の松坂屋などが是正指導を受けた。(共同通信)
■サービス残業は、内部告発で発覚する

 サービス残業は、その会社の従業員や退職した元従業員の内部告発をきっかけに、 労働基準監督署が動き発覚していくというケースが圧倒的です。
ところで労務調査を行っている行政官庁については、ほとんど一般的に知られていませんので、 ここで少し解説をいたします。
○労働基準監督署

 国が設置している官公署です。労働基準法をはじめ厚生労働省が所管する法律に基づいて 労働条件の確保・改善の指導、安全衛生の指導、労災保険の給付などの業務を行っています。
○労政事務所

 都道府県が設置している行政機関です。
豊かな勤労者生活の確保と労使関係の安定を図るため、労働相談及び労使間のあっせん、 労働知識の普及啓発、労働関係調査などの業務を行っています。
 ある日、会社の電話が鳴り、『おたくでサービス残業をさせているという情報がありますので、お話を伺いたいのですが…。』 と連絡が入ります。このとき、労働基準監督署からですと注意が必要です。
何故なら下表のとおり、監督署には司法警察と同格の強い権限が法律で与えられているからです。
老人ホームの経営者もここに逮捕されたのです。
  逮捕権 立入調査権
労働基準監督署 ○ ○
労政事務所 × ×
■適正な是正処置をすれば労務調査は恐くない

 労政事務所の担当であれば、少しは気が楽になるでしょう。
ここは、都道府県が、勤労福祉の増進のために設けられた機関で法的な強制力を持っていません。
したがって事業所へ調査に立ち入ることは出来ません。代わりに出頭要請をしてきます。
県によっては、労働センターとか商工労働センターといろんな名称を使っていますので、 連絡があったときには労政事務所の方ですかと確認をしましょう。
また行政とは別に、因縁をつけて企業から和解金を引っ張ることを目的とした得体の知れない団体が 似たような名称を名乗るケースもあることも認知しておいてください。
これに対する対処は、また別の機会に譲ることとして、 告発した従業員が最初にどこに相談に行ったかによって監督署か労政事務所が決まります。

 監督署の場合には、法令違反の有無の調査のために事業所への立入りを行います。これを臨検といいます。
そして、監督官が来社し、関係者への尋問や帳簿書類の提出を求めてきます。
臨検の結果、法違反があった場合には是正をするように勧告がされます。
ここで合法的になるよう改善していくことを後日報告すれば、 それ以上の問題に発展することはありません。しかし、虚偽報告をしたり、 タイムカードの改ざんなどをすると、悪質な証拠隠滅をしたということで逮捕権が行使されてしまうのです。
監督署から調査が入るとなるとあわててしまうでしょうが、 合法条件を充たす自社で出来る労務改善をしていけばよいのです。
もし、同業のお仲間から、監督署がきたという話しがあったら、次は当方の番かもしれません。
そのときはすぐに私どもへご連絡ください。

●合法的にサービス残業をクリアするポイント
1.現在、なぜサービス残業となっているのか真因を探る
2.本当は、サービス残業ではないのに管理不十分な為に違法状態をつくってしまっていないかを検討する
3.変形労働時間制度など使える法制度があるのに使っていないことはないかを確認する
4.規則や内規を整えたうえでも問題が解消しない場合には経営革新の必要性を考慮する
5.従業員との対話を重視して、現状の改革を進めていく

■現状の給料のまま合法に解消する法
1.現状所定労働時間の確認と周知
 
 現在、就業規則や労働契約で就業時間がどうなっているかを確認します。
法定労働時間よりも短い労働時間となっている場合には、その部分も含んだ賃金であることを従業員に認識してもらいます。
法定労働時間をどれだけオーバーしているのか実態を把握します。
過去1年間でもっとも残業時間が多い月を基準として善後策を考えていきます。
 
2.現在の給与水準を時給換算する
 
 最も労働時間が長い月の総労働時間で割増賃金分も見込んで時給に割り戻してみます。
時給額が現在定められている各都道府県の最低賃金額を超えているかどうかを検証します。
超えていない場合は、改めて従業員に対して1週間15時間分の割増賃金を含んだ給料である旨を 告知した通知書を交付して合意を得ることが出来れば、合法化は完了です。

■強い企業へ変革していく良いきっかけに

 割戻しした時給が最低賃金額を下回っている従業員がいる場合には、 その者については現行給与額の引き上げをしていくか、もしくは残業の規制をしていくか検討していかざるを得ません。
季節により繁閑の差があり、残業時間のムラがあるというような場合には、 変形労働時間制の活用によって一定の期間平均して法定労働時間内に 押さえるようにすることで残業そのものをなくすという方法もとれます。

 それでも、やりくりが出来ないという場合には、仕事の量、進め方、人員配置など 経営上のムリ・ムダ・ムラがあるのではないでしょうか。
「うちでは、もう一人も雇えない。労働基準法など守ってられないよ」こうおっしゃられるお気持ちはわかります。
労働基準法は古く、現在の状況に不具合も多々あります。
また労働時間に関していえば、かつてのバブル期に世界中からの日本の長時間労働がバッシングされたために、 余りに急激に労働時間の短縮をしすぎたことが、今裏目に出ていることも確かです。
しかし、違法状態を放置していくことは前号でもみたように思いもかけない結果をもたらして、 多額の出費を余儀なくされるリスクがとても高くなっています。
うちの社員なら大丈夫だというタカをくくってはいけません。
むしろ、問題の解決は会社を発展させていくための良いきっかけに出来るはずです。
仕事の進め方の革新や組織のあり方の見直し、強い企業に変身するための契機にぜひしていきましょう。
当方でも出来る限りの支援をさせていただきますので何なりとご相談ください。

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