就業規則
現在の労働法の世界では、圧倒的に労働者保護ですので、 会社のとった行動に対して、権利の濫用とか、不当行為であると従業員が主張をし紛争状態になったとしたら、 平素、就業規則などのメンテナンスにあまり気を使っていない企業では、 99%勝てる見込みはないと断言してよいでしょう。
労働法のコンプライアンス体制を万全にして、ようやく5分5分という世界なのです。
裁判では、裁判官の主観が入るからです。
しかし管理体制を万全にしていれば紛争そのものが起きる蓋然性がぐっと低くなる訳です。
労働紛争がひとたび起きると、この処理へのエネルギーは想像以上のものとなります。
そして、その間は全く生産性がない状態が続きます。
そのような事態にならないように、労働法のコンプライアンス体制を万全にするための ひとつの手段として就業規則の見直しをお勧めします。
根本的な労使関係の変化をプラス作用に変える
先般、本年から改正された労働基準法に伴って就業規則の見直しや 新たなつくりこみが必要になっていることをご案内申し上げました。
今回の労基法の改正は労働契約~解雇といった、 これまでほとんど改正されなかった労働基準法のコアの部分に改正のメスが入ってきていることが特徴です。
このことからも言えるのですが、この国では根本的な労使関係のあり方に変化が及んできているのです。
終身雇用、年功序列に加え日本的経営の特色3種の神器といわれた 労使協調が今音を立てて崩壊しています。
昨年末の統計では労働組合の組織率も生命線といわれた20%を遂に割り込みました。
このため今日では「春闘は終わった」といわれるように集団的な労使交渉は話題にならず、 代わって個人のサラリーマンがサービス残業で会社から未払の賃金を勝ちとったという ニュースばかりが目立つようになってきました。
実際、個別労働紛争は激増中ですでに労働基準監督署などの行政窓口に寄せられる 労働相談は年間60万件を優に突破する時代となりました。
『ウチはもともと労働組合なんかないし関係ないな』と思われる企業の方も、 最近の従業員、特に若い世代が何を考えているのかわからない、 あまりに自己中心的にモノを考え行動しすぎている、すぐに権利ばかり主張する・・・ こういったことを強くお感じではないでしょうか。
また逆に経営が苦しいとき、それなりの自信があって経営者や上司が本心から 『悪いようにしないからついてこい』といっても社員に通用しなくなったと感じませんか。
これこそが価値観の変化つまり労使協調を司ってきた家族主義という日本的経営の特色の喪失の真の意味なのです。
バブル崩壊後の失われた十年は、まさに、労使双方にとっても「安定」という生存のための 最も大切なものを失った年月であったといえるでしょう。
しかし、このまま、会社側の営利主義と社員側の個人主義の対立が先鋭化していくならば、 企業の存続がありえないことは確かです。
古い労務管理の道具が輝くとき
今の世の中の流れを考えれば、好むと好むにかかわらず雇用に関しては契約社会、 そして、それと表裏になる訴訟社会へと変わっていくことが確実な情勢に感じます。
しかし、だからといって、毎日毎日ギスギスしていたのではたまったものではないでしょう。
では、どうしたらよいでしょうか。
その答え、つまり今後発生するであろうかなりの問題の解決を実現できる 昔からある労務のツールがあるのです。それは就業規則です。
こういうと誤解されるかもしれませんが、一滴の水も漏らさない完璧なものを作って 規則規則でがんじがらめにしてしまいましょうというのではありません。
もちろんルールを明確にすることで不要な摩擦はずいぶんと解消されることになるでしょうが、 バカとはさみは使いようの例えのように、就業規則も、 これが上から一方的に与えられて問答無用でこれに従えというようにしか取り扱わないのでは 紛争のネタの誘引ツールになってしまいます。
就業規則の作成や見直しにあたって労働基準法などを非現実的にガチガチに守るためだけでなく、 労使が納得できる労働条件をつくり上げていくための集大成と呼べるものにできれば、 ぐっと価値が変わってくるのです。
俗に就業規則は会社の憲法ということがいわれていますが、真にそうなるように実践していくわけです。 そのような視点でつくられた就業規則は単なる古びれた労務の帳簿ではなく、 21世紀の新たな人事マネジメントツールとして輝いてくることになるに違いありません。