適格退職年金

適格退職年金問題を考える

 「てきねん」という呼称で、多くの企業で導入されてきた適格退職年金。
大問題となっている公的年金と同じ構図でこの企業年金も今、揺れています。
適格退職年金とは、法人税制上、掛金がすべて損金(会社の経費)になるという 一定条件を満たした企業年金のことをいいます。

 この適格退職年金の問題とは何か、そして解決していくべき課題は何であるのか、 探ってみることにいたしたいと存じます。

■適格退職年金の問題点
【問題点1】逆ザヤにより、積立て不足が発生している。

 高度成長時に導入された適格退職年金の予定利率は、 ほとんどの企業で5.5%で設定されています。 しかし、実態は1%も回せない状態が続いているのです。
景気の持ち直しで運用実績は改善されつつあるものの、 当面は、かつてのような高金利の期待は出来ないとみておくことが自然です。 何十年も長期で運用できるということであれば別ですが、適格年金の寿命はあと8年しかありません。
この間、何も手を打たないとするならば、毎年毎年累損が増えていくという悪循環に陥ることになるのです。
【問題点2】受給権の保護が明確でない。

 現状では、極端な話、事業主のハンコひとつで解約が可能となっています。 その際に積立不足があっても不足部分の償却責任が問われません。 脱退するときに過去勤務債務と残高の不足分を充当させられることになる厚生年金基金との大きな違いです。 もちろん、退職金規程という労働条件を導入時点に設定したわけですから、 金融機関との適格退職年金契約が解約したからといって、退職金はそれで無しというわけにはいきません。
労働基準法上の不利益変更といった法的な問題がまったく別に残存することになります。
【問題点3】解散時の還付金が一時所得になる。

 適格年金を解約すると、積立金は清算され、 還付金として従業員個人ごとに支払が発生することになります。 還付金は退職所得ではなく、一時所得となるため税制上の優遇が受けられなくなります。 仮に、20年勤務し還付金が800万の社員の場合、退職所得では税金ゼロですが、 一時所得では375万円も所得金額として確定申告しなければなりません。
住民税の大幅増や保育所の収入基準を上回るなどの影響が出てきます。

■解決していくべき課題

 挙げた点以外にも問題山積みのため、このまま適格年金を放置しておくことでは 少なからぬ影響が企業及び従業員に及ぶことが確実ですので、 政府では、平成14年4月1日に「確定給付企業年金法」を施行し、 同時に適格年金制度自体を平成14年3月をもって廃止としています。 既存の適格退職年金は10年以内(平成24年3月まで)に他の制度へ移管するか 解散することを企業は選択しなければなりません。

■移行できる制度

移行先として現実的に想定出来るのは、適格年金制度の改良型スキームである 「確定給付企業年金」、平成13年10月に新設された日本版401kといわれる「確定拠出年金」、 そして中小企業退職金共済法に基く「中小企業退職金共済」のいずれかということになるでしょう。
「厚生年金基金」という選択肢もありえますが、代行返上で話題のように、 ここも多くの基金の財務状況は火ダルマとなっており、新たに加入するということはまず現実的ではないでしょう。 このほか、どこにも移管せず、廃止したり、減額して支払うという手段もありえますが、 先に述べたように労働債権にかかる問題となり、従業員の同意形成という大きな課題を クリアしていかなければなりません。

■解決していくべき課題

 移管先をどこにするとしても、ここで退職金制度の再設計をする必要性があります。
『退職時の基本給×勤続年数別係数×事由別係数(自己都合・会社都合)』という典型的なシステムでは、 退職金カーブが複利効果のように2次曲線を描いて上昇していきますので、 高齢化、低成長といった現在の社会情勢とマッチングしていないのは明らかです。
現在、適格年金を実施している企業様におかれては、 ぜひとも早期に是正方策を検討していただきますようお奨めいたします。

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